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グローイング・アカデミー、有本均学長が“人を大切にする”企業のトップと対談する企画「有本対談」。
第2弾は、イタリアンレストラン「カプリチョーザ」や「ハードロックカフェ」など知られる、WDIグループの清水謙社長との対談です。

10%という驚異的な離職率を実現
ブランド力アップが人事面でも“武器”に

有本
まず、清水社長の人材教育に対するお考えを聞かせてください。
清水
我々WDIグループでは「ダイニングカルチャーで世界をつなぐ」を企業理念に掲げています。
外食産業で約40年、ファストフードではなく、テーブルダイニングに重きをおいて、事業を続けてきました。より多くの人に愛されるレストランをつくるため、新たな店舗コンセプトを開発したり、食材や調理にこだわったり、いろいろなことが必要になります。

しかし、それらを突き詰めていくと、最終的に一番大切なのは人だという結論に達しました。レストラン事業は結局、ピープルビジネスであり、人がつくり上げていく産業なんです。だから、WDIの数々のアセットの中でも最も重要なのは、人材だと思っています。もう何年も前からWDIでは、人材ではなく、人財という言葉を使っているんです。

有本
レストラン事業にとって、どのような人財が必要とされているのでしょうか。
清水
外食ビジネス参入から43年間、言い続けてきたのは「元気で明るく、笑顔の素敵な人。他人に喜んでもらいたい、その喜びを自分の喜びと感じられる人」でした。
最近はそれに、グローバルマインドを持った人というのが加わっています。インバウンドのお客様にしっかりとおもてなしができる人、あるいは海外で働いてみようという人、異文化に対して積極的に接することができ、それを噛み砕いて自分の意見にできる人というグローバルな考えを持っていることも必要になってきました。
有本
現在、WDIグループは世界十カ国に進出、事業展開していると聞きました。日本の人財を相当数、派遣しているのでしょうか。
清水
それほど多くはないと思います。重要なのは現地の人がいきいきと笑顔で活躍できる土台をつくること。
最終的には日本人がいなくてもしっかりとマネジメントできるようになっていることが理想であり、最終目標となっています。
有本
今まで沢山の社員を採用してきたことと思います。
採用に関して注意していること、重視していることなどはありますか。
清水
先ほど申し上げた、レストラン事業において必要とされる人財であるかどうかといったことを中心に考えています。また、食文化に興味を持ち、食べることが大好きな人というのも大切です。昨今、外食産業では人手不足という言葉をよく耳にします。本当にそうなのでしょうか。確かに、全体像としてはそうした傾向があるのかもしれません。
しかし、それは新しい事象ではなく過去にも人手不足と言われたことが何度もありました。労働集約型産業の宿命として、日本経済全体の景気や局面に左右されやすいのは分かっています。そんな中でも、各企業ごとにそれぞれが企業努力をして、難局を乗り越えてきました。
現在、我々WDIは人手不足に悩んではいません。その理由として、個性のある業態、ユニークな業態、魅力のある業態など、さまざまな業態をそろえ、そこに引き寄せられてくる人たちが多いこと、人財を大切にするという精神が会社の文化として根付いていることなどが挙げられるのではないでしょうか。従業員の離職率は業界平均と比べ、かなり低い数字になっています。

有本
企業に魅力があれば、どんな時代でも人手不足にはならないということですか。
清水
企業というよりはブランドに魅力を感じている人のほうが多いようです。そこが私たちの強味でもあるのかもしれません。企業として努力している部分に反応している人は全体の2〜3割、残りの7〜8割はブランドに反応してくれているのだと思います。
企業努力をしていてもブランド力のない企業、逆にブランド力があっても企業努力をしていない企業は厳しい状況にあるという印象です。どちらかというと、まだブランド力が引っ張ってくれる方が強いのかもしれません。
有本
ただ、ブランド力で新しく人が入っても、会社の実態がそのブランドに追いついてないことが分かれば、結局、辞めてしまうのでしょうね。
清水
そうかもしれません。
有本
WDIグループでは、人財採用後にどんな社員教育をしているのでしょうか。
社員教育以外にも定着率を上げるため、会社が行っていることなどありますか。
清水
入社前研修にはかなり力を入れています。
入社する2、3日前に、共有体験をさせながら、社会人としての基本的な心構え、外食産業のことなど、少しワクワク感を持たせながら、勉強してもらうわけです。
入社後にはホスピタリティ研修を行い、ホスピタリティビジネスとはどんなものか、どういったことに働く意義を感じて欲しいのか、感じるべきなのかといったことを知ってもらい、社会的意義も含め、外食産業で働くことの意義、位置づけを明確にします。
さらに入社6ヶ月後には、フォローアップ研修として、実際に働いてみて、何を感じたか、入社前とギャップはあったかなどを話し合ってもらうんです。当社は新卒と中途が半々か中途の方が少し多いくらいの割合で入社します。中途入社の方にも年に2回、研修を行っていて、入社半年後の最初の研修ではWDIの理念や人事制度、キャリアプランについて詳しく説明しています。WDIがマルチブランド戦略をとっているからこそ、一つの会社にいながら多岐にわたる自分自身のキャリアプランを描くことが可能なわけです。このマルチブランド戦略というのは、WDIにとって、社員のモチベーションアップのための“武器”だと思っています。
有本
実際にブランドを越えて異動する社員の方は多いんですか。
清水
かなりいます。
人事考課のなかで、半年に一度、社員の希望を聞き、異動を決定しているんです。
有本
基本的には本人の希望に沿って異動先を決めていくのですか。
清水
本人の希望を叶えたいというより、色々な経験を積ませたいというのが会社の方針です。
そのなかで希望に沿わないケースもあると思います。
有本
そうした教育や人事制度などの仕組みづくりのほか、会社の文化や風土も社員のモチベーション、定着率アップに大切な要素です。
WDIの社風や文化について、特筆すべきことはありますか。
清水
社員のご家族を巻き込んでいくというのが、WDIの社風と言えるかもしれません。
例えば、社内には色々な表彰制度がありますが、社員が表彰されると、そのことを手紙などでご家族にも報告するようにしています。実家のご両親にお知らせすると、大変喜ばれるんです。
また、社員のご家族の誕生日に花を贈っています。単身者なら実家の母親の誕生日に、既婚者なら奥さんの誕生日に、一筆添えて贈るんです。子育て世代には、子どもが中学校を卒業するまで、進学祝いを贈っています。働いていれば色々なことがあります。社員のご家族を巻き込み、ご家族にも会社で頑張っている様子が伝わるようにすることで、社員の心が折れそうになったときは、会社と一緒にサポートしてくれるようになるのだと思っています。
有本
御社の評価制度についてお聞かせください。
清水
これは会社経営の永遠のテーマだと思っています。
3年に1回は見直すようにしているのですが、どんな制度をつくっても、社員全員が納得するような制度にはなりません。2割の社員にドンピシャでも、逆に2割の社員は不満に思うものです。そうした点を踏まえた上で、WDIではCDP(キャリアディベロップメントプログラム)と呼んでいる、基本的には目標管理型の制度を採用しています。給与は業績よりもプロセスを重視し、賞与では業績を重視するようにしています。
レストラン事業は外的要因を受けやすく、社員がどんなに頑張ってもなかなか業績が上がらないこともあります。
そんな時、しっかりとプロセスを見て、トータルで評価しなければなりません。また、賞与のほかに業績によって自動的に受けられるインセンティブ制度もあります。
有本
お話を伺っていると、やはり定着率が上がるような評価システムを採用されているだなと思います。
現場の人間は数字だけで判断されると、どうしても反発してしまうもの。プロセス重視なら不満も少ないはずです。
清水
業績を上げている社員から見ると、プロセスなんてどうでもいいだろうという不満が多少はあるようです。しかし、そこは会社の考え方をきちんと説明して、理解してもらうしかありません。こうした評価システムは定着率にはつながっているはずですが、収益率につながっているかは分からないんですよね。これは有本さんに伺いたいんですが、離職率が10%というのは、逆にぬるま湯体質の職場になっていませんか。
有本
離職率10%とは驚きです。だからといってぬるま湯体質ということはないでしょう。他の飲食店に移ろうと思えば、いくらでも移れる時代ですから、そのなかでもWDIを自分の意志で選んでいると考えたほうが自然です。
清水
大半は会社に魅力を感じているというよりも、ブランドに魅力を感じているのだろうと思っています。
評価システムや会社組織に魅力を感じているのは少数派かもしれません。
有本
ブランド力、評価システム、社風など、人によって感じる職場の魅力はさまざまです。WDIには社員が魅力に感じる点が多く、それは離職率を下げるための“武器”が多いと言うことなのだと思います。だから10%という驚異的な数字になるのでしょう。おそらく現在の業界全体の離職率の平均は30%くらいです。10%というのは異次元の数字です。
清水
離職率10%というのはずっと維持していきたいと思っています。今後、ブランド力が落ちていくこともあるはず。
その時、ブランド力に頼らず、いかに会社の評価システムや社風で勝負できるかがが重要になってくると思います。
有本
社員以外についても伺います。
飲食店の多くが、パートやアルバイトなどの非正規従業員に外国人を雇っているようですが、御社の状況はいかがでしょか。
清水
外国人のスタッフについては、積極的に採用しています。
一般的なイメージとして、WDIがユニークなブランドをいくつも持っていることはかなり広く知ってもらえるようになりました。海外進出についても認知されています。次に広く知ってもらいたいのが、外国人スタッフの活用なんです。外食に限らず、日本の労働集約型産業はいずれ今よりももっと多くの外国人に頼らなければならなくなります。その時になって慌てないよう、今から準備しておかなければなりません。
有本
定着率の高い会社の傾向として、上司と部下のコミュニケーションが上手くいっているという特徴があります。
これについてはどうお考えですか。
清水
WDIの全体像として、エリアマネ―ジャーや営業部長など、現場と直接関わる機会が多いポジションには「優しい人」が多いと思います。業績的な数字を洗い出して、お尻を叩くというやり方ではなく、温情的な手法で部下をコントロールする傾向があります。社長の立場からは少しもどかしくもあり、物足りなく感じることもあるほどです(笑)。
しかし、これは会社の財産だと思っています。会社のステークホルダーを並べて比べた時、一番重要なのは従業員たちなんです。
彼らが仕事にやりがいを感じて、笑顔で生き生きと働いているかどうかにフォーカスをしていけば、自ずとお客様にも喜ばれるようになります。お客様が喜べば自然と業績も上がり、株主も喜ぶようになり、取引先も喜ぶわけです。優先する順番を間違えなければ、会社の業績は必ず後からついてくると信じています。
有本
まず従業員を大切にしたいという考えはその通りだと思います。
従業員を大切に考えるからこそ、従業員の成長を願い、教育も必要になるわけですね。社員教育について私たちグローイング・アカデミーにはどのようなことを期待されているのでしょうか。
清水
約8年前、社内にも教育プログラムをつくり、年間500〜600人の社員が受講しているのですが、より専門的なことを学ぶためには専門企業に任せたほうがよいのではないかと思うようになりました。
特に、実際に現場でより多くのお客様と実際に接しているのは社員ではなく、私たちがパートナーと呼んでいる約3000人以上のアルバイトやパート従業員です。彼らに外食産業で働くことの意義、ホスピタリティー精神やお客様の笑顔を見る喜びなどについて、理解を深めてもらうことが、WDIグループとして次のステップに行くために、非常に重要になってくるのです。このパートナーの教育という点で、御社のお力をお借りしたいと思います。
有本
清水さんのご期待に添えるよう、弊社も努力していきます。
本日はありがとうございました。